前項では、情報入手に欠かせないスマートフォンやラジオなどのモバイル機器を活かすために用意したいバッテリーとバッテリーから使用機器への接続方法、持続的に備蓄しておく『ローリングストック』のやり方を紹介しました。
今回は『水の備蓄と補充(ローリングストック)』です。
「水」の確保は、私たちの生命の維持に直結します。大切な「水」を賢く蓄え、賢く使う方法を紹介します。
私たちは生命の維持に欠かせない「上水(水道水)」を「炊事・飲用」だけでなく、洗面や洗濯、風呂、トイレで汚物の洗い流しにまで使用していて、地震災害発生時にやってくる「断水」→「給水車または給水施設での給水」、はたまた「下水道の不通」を意識することなく生活しているのが普通ではないでしょうか。
下の絵は浄水場の仕組みです。多くの送水装置や薬品注入、攪拌装置が働いています。自家発電機もあるでしょうが、大規模停電では浄水場が停止すると考えてよいでしょう。浄水場から各戸までにある配水池や送水ポンプ場が停止することも予想されます。
それでは順を追って見ていきましょう。
(1)飲用水1日一人3リットルの備蓄 (2)炊事用水の備蓄 (3)保管および節水の工夫 (4)非常対応(自家浄水) (5)廃水処理
(1)飲用水1日一人3リットルの備蓄
防災啓発メッセージでは、「1人当たり1日3リットルの水を3日分」を備蓄するように言われています。この根拠は何でしょうか。
体重60キロの成人の体内から排出される水分は、尿や便といった目に見える水分に加えて、不感蒸泄(発汗を除く皮膚からの蒸発)、呼気があり、あわせて一日に約3~3.5リットルとなります。 これを食物に含まれる水分と飲料(水)で補う必要があります。食物に含まれる水分は食材や調理方法によっても異なりますが、約800ミリリットルです。 また、体の中で食物が分解されてエネルギーに変わるときの化学反応によってできる代謝水が約300ミリリットルありますので、残りを飲料(水)で摂取することになります。
給水が始まる(発災後3日目を期待)までは、それまでに備蓄していた水でまかなう必要があります。その間、飲用・調理用としては、市販のペットボトル水を主とし、ポリタンクに貯めた水を従としましょう。
そして、ペットボトルの水は直接口を付けて飲まずに、コップに受けて飲みましょう。いわゆる『口飲み』をした場合、口の中の細菌がボトルに混入して増殖する恐れがあるからです。
それは、国産の天然自然水やミネラルウォーターには、殺菌薬剤が調合されていないからです。空気中の細菌類の混入もあることを考えると、ペットボトルの水は開封後1日で使い切るようにします。ポリタンクの水は貯めた日から3日(夏)~5日以内(冬)を限度として、生水ではなく、加熱沸騰させてから飲みましょう。
(2)炊事用水の備蓄
炊事用とは、調理だけでなく衛生を保つための洗いも含めて考える必要があります。『一般家庭水使用目的別実態調査』で炊事・飲料用途が67㍑/人・日とありました。飲料用途での必要量が一人あたり約3リットルですから、多くが炊事用途となります。煮たりゆがいたりする料理で多少の水を使いますが、ほとんどは食材を洗ったり食器を洗ったりするのに使っているのです。炊事調理をする人は実感できると思います。
飲用水と同じく、給水が始まる(発災後3日目を期待)までは、備蓄していた水でまかなうのですが、煮炊きを前提にすると、ポリタンクに貯めておいた水道水を主とし、市販のペットボトル水を従とします。そして、ポリタンクの水は貯めた日から一週間以内で使い切るようにしましょう。
(3)保管・節水の工夫
<保管>
平常時からローリングストック(1日ごとに)しておきましょう。下の写真は1週間のインターバルでローリングストックしている状況です。今日が『月曜日』だとすると、『月曜日』のタンクを使います。そして、使い終わったら(使い終わらなくても)新しい水道水に入れ替えて、『日曜日』の左側に収納します。その前に『火曜日』のタンクを取り出して、ひとつ右にずらしておきます。 平常時は、これらのタンクの水を飲んだり、炊事などに使う必要はありません。洗濯でもお風呂でもいいので消費してください。そして、発災時に断水したときから、これらを主に炊事用として使い、空になったタンクを持って給水を受けに行ってください。すでに自宅には1週間分の備蓄があるのですから、慌てる必要はありません。落ち着いて行動してください。
使用する容器は、5リットル、2リットル、500ミリリットルタンクです。この中で5リットルタンクは取手が付いていて持ち運びやすく、またカッチリとした矩形で収納効率も良いのでお勧めです。これはホームセンターでは、あまり見かけたことがありません。スーパーマーケットで”電子水サーバー”の持ち帰り用として売られています。体力に自信のある方は、10リットルタンクや20リットルタンクでも構いません。
”家族”の一日分を考慮した本数を準備しましょう。
ポリタンクの中を水道水でよく洗浄したら、水道水を充填して、高温にならない室内に保管します。出来れば殺菌剤の塩素成分消滅を極力防ぐために暗所が望ましいです。
<節水>
調理での水使用量を節約するためには、レトルト食品がお勧めです。パックを温めるお湯は飲用に適さなくても構いません。あるいは、フリーズドライ食品もよいでしょう。必要最小限の飲用水で済ませることができます。どんな食品があるのかは、減災の技術:食料の買い足し備蓄(ローリングストック)を参照してください。
調理以上に水を使用するのが、食材や食器の洗いものです。
食材の洗いでは、野菜類の洗いに多くの水が必要です。災害時だと言っても、土がついていたり農薬がついたままでは食べられませんから、同じように洗わなければなりません。湧水があれば別ですが、限りある備蓄水ですから、節水が求められます。そこでフリーズドライ野菜や乾物を使うこともひとつの解決策として取り入れてはいかがでしょうか。
食器の洗いでは、鍋を汚さないことが大切です。調理で汚さないためには『ポリ袋クッキング』が有効です。『ソーセージと大豆のラタトゥイユ』の調理例を示します。いろいろと応用ができますので、試してください。
食器を汚さないためには『ラップフィルム被覆』が有効です。
ラップフィルムで覆っても、食べている最中に破れたりすることがあります。容器が汚れてしまった場合は、汚れをティッシュペーパーで拭った後に、重曹液などの洗浄水をスプレーして紙で拭きあげると良いでしょう。
ところで、油調理したものは高熱のためラップフィルムが溶けてしまいます。そのようなときは、ラップフィルムを被せた上にアルミフォイルを同じ要領で被せると同じ効果が得られます。普段でも、脂っこいものを食べる時に使える技です。試してみてください。
(4)非常対応(自家浄水)
ここでの『非常時』とは、①貯留水そのものが無くなったとき ②貯留水はあるけれども、保存期限が過ぎた(保存期限が分からなくなっている)というケースでお話をします。
① 貯留水そのものが無くなったとき
生活排水(洗剤、廃油など)や工業廃水(化学薬品、重金属など)が混じり込んでいなさそうな水を見つけて汲んでくるしかありません。しかし、残念ながら都会地にはなさそうです。山間の沢から湧きだした水か井戸水ぐらいでしょうか。身体への侵入物に弱くなっている現代人にとっては、直接の飲用水にはできませんね。どうしても飲用にしなければならないときは、細密フィルターと活性炭を通して浄化する浄水器を通して、病原因子となる細菌を除去した方が良いでしょう。そしてさらに加熱沸騰させるようにします。
② 保存期限の過ぎた貯水の利用
洗い物に使うことにとどめましょう。
炊事用に利用する場合は煮炊きか湯煎までとして、安全確保に努めましょう。
(5)廃水処理
愛知県HPより
冒頭で、私たちの生命の維持に欠かせない「上水(水道水)」の浄水処理のやり方を見ていただきました。それらの水の使用後は、私たちの家から海辺にある処理場まで、延々とした下水道で運ばれて汚水処理と汚泥処理を経て海に放流されたり、陸土に戻されたりします。そのプロセスでも、多くのエネルギーと薬剤が使用されています。
大規模地震発生によって、引き起こされる広域停電で処理場が停止すると考えてよいでしょう。各家庭から処理場までにある下水道の破損や送液ポンプ場が停止することも予想されます。
大雨でマンホールから雨水が噴出するのと同じように、糞尿を含む汚水が町中にあふれ出すことになるのです。したがって、下水道は原則使用禁止です。利用再開のアナウンスを待ってください。
その間は、尿・便は固形化して焼却ごみ回収再開まで保管。汚水は汚染を最少化した廃水(家庭内の拭き水程度)は庭に堀った穴に捨てる、または、好ましくはないが雨水溝に流す。油や洗剤の混じった廃水はビニール袋を二重三重にして密封保管し、下水道の再開を待つなどしてしのぎましょう。
この処理については、まだまだ検討しなければなりません。良い方法が見つかったら、あらためてお知らせします。
『水の備蓄と補充(ローリングストック)』について紹介しましたが、皆さま方のご家族構成や生活に必要な水の利用形態は千差万別です。 お困りのことがありましたら、どうぞお気軽にお問い合わせください。一緒に考えて、水の備蓄のお手伝いをさせていただきます。
次項は『燃料の備蓄と補充(ローリングストック)』です。 「燃料」の確保は、私たちの安全で多彩な食生活の維持に重要な役割を持っています。大切な「燃料」を賢く蓄え、賢く使う方法を紹介します。
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