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家具転倒防止

前項では、家族にとって安心のシェルターであってほしい住宅を耐震の観点から理解するために『住宅の構造』を紹介しました。今回は、住宅内に安全な空間を確保するポイントを理解するために『家具転倒防止』として 家具の挙動~固定方法の鉄則 を紹介します。

最近の住宅では造り付け収納棚や収納専用のパントリーやクローゼットを設けることが多く見られるようになってきました。人の居住空間と収納空間の分離ですね。完全分離はあり得ませんが、接する時間を短くすることで地震災害時の巻き込まれを最小化する効果があります。

しかし、長年住んでいると家具や家電製品が増えてきます。買ってきて床にポンと置いた状態の背の高い家具は、地震の揺れで簡単に倒れてしまい、周囲にいる家族に覆いかぶさってしまいます。自立させている家具は、造り付け家具に近づけるための造作をしておく必要があるのです。

それでは、順を追って説明していきましょう。

(1)家具の挙動 (2)家具の配置で安全空間を作る (3)家具安定化の鉄則 (4)壁の構造 (5)家具固定の鉄則


(1)家具の挙動


『立っているものは倒れる』ということは言うまでもありませんが、地震動を受けたときに、どのように揺れて倒れるのかを考えておきます。 電車やバスに立って乗っているときの様子を思い浮かべるとわかりやすいと思います。 そして、電車やバスを「家」に置き換え、乗車している自分を「家具」に置換えてみましょう。 電車は急発進をしませんが、それでもつり革を持っていないと反進行方向に倒れそうになります。 地震の場合は、急激な揺れになりますから、家具にとっては足元を強い力で押し引きされることになります。どちら向きに揺れ始めるか分かりませんが、電車と違って往復の揺れになることは明らかです。 それによって壁にぶつかった衝撃がさらに家具を押す力になります。 地震が断層ズレを起こした場合には、上下の強い力が働くことがあります。そのときは、家具は上方に放り上げられた状態になり、着地したときにどちらの方向に転んでいくかは定かではなくなります。



(2)家具の配置で安全空間を作る


これから家具の転倒防止を考えていくのですが、その前にやっておかなければならないことがあります。 それは、生活空間を区分することです。人が居るところと家具が倒れてくるところが重ならないように家具配置をするのです。家具固定の造作をしたら絶対倒れないかと言えば、そうではありません。家具が倒れてもその場に居なければ、ケガをする確率を随分と低下させることが出来ます。 特に、寝室は肝心です。寝ているときやくつろいでいるときには、敏速な退避行動がとれないからです。

どうでしょうか。背の高い家具の正面側に寝るというのは大変危険です。家具の固定をするとしても、その前にしておかなければならない家具の配置見直しは、お金をかけずに被害を軽減する有効な手段です。

ぜひとも皆さまのご家庭でも実施してください。


(3)家具安定化の鉄則

もう一つ、お金をかけないで安全性(転倒の抑制)を高めるポイントを紹介します。 それは、家具に物を収納したときに、総体として重心を下げるということです。

重心とは、物体の各部に働く重力をただ一つの力で代表させるとき、それが作用する点のことです。 物体を床の上に置いたとして、重心の低い方が安定しているように思えますね。経験的に倒れ難いことが感じられます。代表的な形状(三角形、正方形、長方形)で重心を示します。

次に、3段の書棚への収納方法の違いによる重心高さの違いを見てみましょう。 下段に重いもの(大判の辞典など)、中段に少し軽いもの(文庫本など)、上段には軽いもの(写真や飾り物など)を収納したときと、すべての段にぎっしり収納したときとを比べてみましょう。厳密ではありませんが、重心高さに違いがあることが分かります。

このようにしておくことで転倒しにくくなり、家具固定を行うときも、固定部材や金具への荷重が軽減できて固定耐力に余裕を持たせることができます。

(4)壁の構造

いよいよ家具固定の話に移っていきますと言いたいところですが、その前に家具を固定する壁の構造について理解しておかなければなりません。

真壁(しんかべ):壁を柱と柱の間に納め、柱が外面に現れる壁のこと。 日本国内では主に和室や数寄屋造りや書院造などの伝統工法が用いられた建物、伝統家屋などに見ることができる。 大壁(おおかべ):柱が見えない建築物の壁のこと。近年の住宅は、ほとんどがこの大壁で作られている。

これだけの説明では家具固定に必要な柱、間柱、胴縁の構造が分かりません。 図解すると以下のようになります。





大壁の下地
大壁の下地

真壁では「柱」が見えているので、あとは壁の裏にある「間柱」または「胴縁」を探せばよいですね。 大壁では「柱」も見えていませんが、部屋の隅には大抵「柱」がありますので、そこから一定の間隔で「間柱」があると想定すればよいでしょう。 ただし、最近では胴縁を設けず、内壁材を間柱に直接固定していることもあるので、胴縁が無いかもしれないと思って探る必要があります。

また、鉄筋コンクリート造りのマンションでは内装ボードを「GL工法(コンクリート壁に接着剤を混ぜた団子状のセメントを盛り付けて石膏ボードを貼る工法)」で施工しているため、木製の下地が有りません。 今回は説明を省略しますが、お知りになりたい方は、お問い合わせください。

それでは、下地の探し方を動画で見てください。





(5)家具固定の鉄則


(1)家具の挙動 と (4)壁の構造 の説明を読み合わせると、家具を確実に固定するための要件は次のようになります。 ① 上向きに突き上げる力を受け止める ② 前方に引き倒す力を受け止める この二点を成り立たせる部材と工法を考えればよいのです。

お勧めは「L型金具」を用いた「間柱または胴縁」への固定です。 ① 上向きに突き上げる力を受け止める・・・部材B ② 前方に引き倒す力を受け止める・・・部材A+部材B+L型金具 このときに家具側の固定位置にも注意が必要です。最近の家具は軸枠で矩形を作って合板を貼り付けているため、家具の周囲にしか強度部材がありません。



家具転倒防止について紹介いたしましたが、皆さま方のご自宅の構造やその施工方法、お持ちの家具は千差万別です。しかし、(3)家具安定化の鉄則と(5)家具固定鉄則で示したことを踏まえて考えれば、適切な処置を施すことができるでしょう。 お困りのことがありましたら、どうぞお気軽にお問い合わせください。一緒に考えて、施工のお手伝いをさせていただきます。


次項は『ガラス飛散防止』です。 明るくモダンな家づくりに欠かせない「ガラス」ですが、ひとたび破損して飛散すると家族を傷つける凶器になります。また、被災後の行動や活動の妨げになってしまいます。 『ガラス飛散防止フィルム』を上手に貼るにはどうすればよいかを紹介します。

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