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宅地の地盤を知る

砂上の楼閣』:見かけは立派でも、基礎がしっかりしていないと長く維持できないこと、または元々成り立たないことの例えに使われる言葉です。何事も基礎が大事ということですが、私たちの住む家にも当てはまることです。

まさか砂場の上に家を建てることなどありえないと思われるかもしれませんが、地表のちょっと下が砂地であったり、地下水が浸みていたりといったことがあるのです。 それでは、いろいろな地盤の状態と地震被害の関係、そして対策方法を紹介します。 これから土地を買って家を建てようとしている方や、マンション物件を探そうとしている方は勿論のこと、現在住んでいる場所で住み続けようとしている方々も生活設計の参考にしてください。


(1) 地層 (2) 活断層 (3) 軟弱地盤 (4) 盛土と切土 (5) 対策



(1)地層


地震による震度の大小に関わってくるのが地表から1000メートルくらいまでの地層構造です。 マグマが冷えて固まってできた花崗岩が、その後隆起や風雨による浸食、崩壊を経て河川によって流されて流域に沖積するといった地球の長い営みを経て、現在の地層が形成されています。 普段は目にすることも、その実態を実感することはありませんが、多大の労力をかけて調査・報告された地質図から読み解くことができます。 ここで知っておきたいのが、花崗岩層は地震波が短時間に通り抜け、花崗岩層に囲まれた沖積層では地震波が花崗岩層にはね返されて増幅するとともに長時間滞留して大きな揺れになるということです。 皮肉なことに、私たちが住みやすいところは、沖積層である平野です。住みやすいことから、商店街やオフィス街ができて、古くから住んでいる人に加えてが新たな住人が集中してきます。この流れはいたしかたないことですが、私たちは平野に住むのであれば、そのリスクを分かったうえで対策をする。または花崗岩層の上にある台地に住むかを選択する必要があります。 参考に、東海地方の濃尾平野の地層断面を引用・加筆掲載します。

【名古屋南部地域の地質,地域地質調査(5万分の1地質図幅),地質調査所】

各地での地層断面もいろいろと報告されていますので、調べてみてはいかがでしょうか。


(2)活断層


それでは、地下の深部または岩盤に目を向けてみましょう。 2016年4月14日に起きた九州・熊本大地震で一躍有名になった『布田川・日奈久断層帯』をはじめ、直下型地震の震源になった「活断層」についてです。 私の事務所がある豊田市にも存在が明らかになっている断層として『屏風山・猿投北断層』や『猿投・境川断層』があります。

これから新しい宅地をお探しの方は、少なくとも活断層の直上や延長線上には近寄らない方がよいでしょう。『それでは、活断層上に住んでいる人はどうすれば良いと言うのだね?』という声が上がると思いますが、活断層の存在を知ってしまったなら、そこから離れるのが一番だと思います。無責任だとか、冷たいと言われても仕方がありませんが、こればかりは多少の対策をしようとも歯が立たちません。 被災して家屋が崩壊した後、同じ場所に家を再建するでしょうか。それから新しい住処を探すというのであれば、決断するのは今でしょう。

ただし「活断層マップ」に記されているものは、調査して分かっているものだけであって、見つけられていないものは記されていません。活断層は、日本のいたるところに潜んでいると思ってよいでしょう。見つけられていない活断層については、家屋の耐震補強および耐震構造の維持メンテナンスをしっかりと行って被害を軽減するしかありません。そして厄介なことに、到来が懸念されている東海・南海・東南海地震のような海溝型の大地震が起きると、活断層が揺り起こされて内陸部の震源となる可能性があることです。海溝型の地震が横揺れとするなら、活断層の地震は衝撃的な上下揺れが特徴です。揺れが複合することを想定した対策は、また項を別にして紹介したいと思います。


(3)軟弱地

実際の地震災害で起きた被害から軟弱地を実感された方も多いと思います。 その被害とは「液状化」です。 私が初めて知った液状化被害は、1964年に起きた新潟地震でした。アパートが壊れもせずに横倒しになっている写真を見て、子供心に何が大変なことが起こったと思いましたが、それが液状化被害であったことは分かりませんでした。この新潟地震がきっかけとなって日本での液状化の研究は始まったそうです。 その後の地震でも、液状化被害は続きました。 1995年1月17日の阪神・淡路大震災では、埋め立て地であったポートアイランドの地面から泥水が噴き出し、あたり一面が泥で覆いつくされ、さらに護岸の擁壁が海側に流れ出すという「側方流動」も起こりました。また、2011年3月11日の東日本大震災では、関東エリアの海岸沿いの埋め立て地にある市街地で宅地の地盤沈下や上下水道配管・マンホールの隆起、泥水の噴出などが起こりました。 あれから5年経った今も、地盤の固化策や地下水の汲み上げによる地下水位の低下策などが続けられています。しかし、地区ごとの住民合意が成立せずに対策工事に着工すらできていない所もあるようです。

液状化は、何も海岸沿いの埋め立て地だけに起こることではありません。 内陸部でも、ため池や沼を埋め立てた土地や河川流域など、水に関わりのある場所でも同様だと考えてください。 市役所が発行しているハザードマップに液状化危険度が図示されていますので、参考にしてください。


<豊田市>

<岡崎市>


(4)切土、盛土

ここで取り上げるのは、地層の表層部の人工的な形成状態です。 花崗岩上の丘陵台地は比較的安全ではありますが、表層部はもともと平坦ではなく、起伏を削ったり、埋めたりまたは盛り上げたりして造られていますので、場所によって違いがあります。 丘陵の高いところを削った「切土(きりど)」。谷や斜面の低い側を埋めた「盛土(もりど)」。そしてそれらの境界部があります。盛土より切土が強固であることは想像できますね。盛土であっても適切に突き固め、法面(のりめん)擁壁施工されていれば土石の滑り出しは予防されているでしょう。 実は私が住んでいる団地は、丘陵地であったところに造られた中規模の団地です。地震防災に関わるようになってから自宅周辺の地盤がどうなっているのか気になりましたが、そのような資料はありませんでした。宅地を購入するときに知識があれば、造成した業者さんから詳細な造成工程を聞き出していたのにと悔やまれます。 そこで「過去」と「現在」を重ね合わせて、どの区画が切土らしいのか、盛土らしいのかを想像することにしました。その方法とは、造成前の地形図と現在の区画図を重ねて観ることです。理科や地理で学んだ地図の読み方を思い出してください。地形図には平面情報に加えて、高さの情報が等高線として記載されています。その等高線をよく見ると、山の斜面の傾斜方向や窪地、谷などの凹凸が浮かび上がってくると思います。元の地形が高地部分や稜線部分は切土に、窪地や谷部分は盛土になっている可能性があります。 ちなみに、先ほど申し上げた私の宅地は、どうやら切土のようです。ホッ! もっと大規模な造成団地では造成業者が記録冊子を刊行していることもあります。



(5)対策


(1)地層→(2)活断層→(3)軟弱地→(4)盛土、切土と、広域から局所へ順を追って宅地の地盤を知るための視点をご紹介してきました。

こうしてみると、日本の国土で安全に安心して住まえる所はあるのだろうかと思ってしまいますね。完璧な宅地選びができないなら、避けることと強化することを区分けて対策していきましょう。


<避けること>

・活断層 これから宅地を探すなら、これだけは避けましょう。 すでに住んでいる所から至急移転しましょうとは言いませんが、小さくてもよいので、代替の土地を確保しておきましょう。 ・軟弱地盤 液状化の可能性があれば、地盤調査をしましょう。 地下水位が1メートルくらいしかなければ、避ける方がよいでしょう。 お金をかけて自宅の地盤強化をしても、周辺が液状化すると、その後の生活に支障があるだけでなく、周辺の工事で新たな支出があるかもしれません。

<強化すること>

・軟弱地盤 どうしてもそこに住まいたい場合は、地下水位を遮断する土質改良をした上で、建屋の基礎をベタ基礎にして建屋の重さを分散することで沈下を防ぎましょう。 ・盛土 軟弱地盤ほどではありませんが、地盤の強度調査をした上で土質改良をしてから建屋の基礎をベタ基礎にすることが望ましいでしょう。 ・盛土と切土の境(異種地盤) 盛土と切土にまたがって家を建てると、柔らかい盛土側が沈下して、家の片側が下がってしまう不当沈下を起こしてしまいます。地震の被害としては、盛土側に土石が流れるということにもなりまねません。 地盤の強度調査をした上で盛土と切土にまたがるように土質改良をしてから建屋の基礎をベタ基礎にすることが望ましいでしょう。 基本的な方策を示しました。


具体的な施工方法は、専門の工事業者によく相談していただきたいと思います。


次項は『住宅の構造を知る』です。住宅は家族にとって安心のシェルターであってほしいですね。本項の『地盤』の上に、家族の命と生活を守る住宅を造りましょう。住宅を構造的に見る眼を涵養する必要性とその高め方を紹介します。

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