前項で『共助』における「助ける人」および「助けてほしい人」の準備、実践を紹介しました。
今回は、次世代を背負っていく今の子どもたちの危機管理能力を育むためのの準備、実践を紹介します。

南海トラフでの大地震発生確率が、益々高まっていく時代にむけて、子どもたちに身につけさせてあげることは、「危機管理能力」です。一口に「危機管理能力」といっても、何が必要なのか分かったようで分からないですね。その構成要素から見ていきましょう。

危機管理能力=危険察知力×危険拡大性想像力×危険回避行動力

タイトルにある式の右辺が構成要素です。どれか一つでも「ゼロ」だったら、左辺の「危機管理能力」も「ゼロ」になってしまいます。しかし、心配しないでください。身の回りの動・植物、もちろん私たち人間にも、元々備わった本能的防御能力があります。それでは、一つ一つひも解いていきましょう。

(1)危険察知力

危険を危険として認識できなければ、ことは始まりません。
確かに、平常時であれば、危険源は既に防護された状態にあり、むき出しの状態ではありません。
例えば、エスカレーターを利用するときを考えてみましょう。

     上り       下り

左の写真は、上りエスカレーターを乗り口(下階)から眺めたもので、右の写真は下りのエスカレーター
を乗り口(上階)から眺めたものです。

そして、実際に数多くの事故が報告されています。
消費者庁のホームページ『エスカレーターでの事故に御注意ください!』を参照してください。

エレベーターを利用するときには、上り・下り・共通の危険が存在します。
【上りの危険】
・後方転倒(転落)
【下りの危険】
・前方転倒(転落)
【共通の危険】
・ステップと降り口のごみ除け櫛との隙間への身体の巻き込まれ
・ステップとスカートガード(側面下部固定板)との隙間への身体の巻き込まれ

ある男性が、下りエスカレーターに乗ってスマートフォンを両手で操作しています。このような光景を見たことがありますね。もしかしたら、自分自身の行為かもしれません。
転倒→転落→巻き込まれるという危険があります。

階段であれば、高い所からは低い所に落ちることを本能的に察知して、ステップを踏み外さないように、スマートフォンを両手で操作して歩くことはないでしょう。いや、時にはいます。そして踏み外して転倒→転落という事故も起こっています。

こちらは子どもを両手で抱えた男性です。
先ほどの事例と決定的に異なるのは、重量物を胸元に抱えているために重心が高くなっているので、転倒しやすくなっているということです。
とっさに子どもを手放して身軽にするということは出来ないでしょう。人間は大切なものは抱き込む修正があるので、二人ともが転落すると思われます。

このように、自分自身または関係者のおかれた環境において、何らかの出来事によって引き起こされる事故を想像できることが、危険察知力と言えます。

しかし、残念ながら、私たちは危険を生み出す何らかの不都合な出来事の存在を意識していません。
①人が降り口の先で立ち止まる
②人が突然に意識不明になって倒れる
③上方から手荷物が落下してくる
④エスカレーターが急停止する   などです。

危険を生み出す何らかの不都合な出来事を多く見出せる人ほど、危険察知力が高いと言えます。

(2)危険拡大性想像力

前項の①②③の出来事は、人が多数になればなるほど、発生する可能性は高まります。
④の出来事は、人が多数になればなるほど、影響を受ける人々の状態は多様になります。さらに同時に降りかかります。

それによって引き起こされる事故は、周辺の人々を巻き込んで、連鎖的に拡大するのです。

(3)危険回避行動力

(1)危険察知力、(2)危険拡大性想像力を読んでいただいた皆さんは、どのように行動するとよいのかお分かりになったと思います。
写真の女性のように、移動手すり(ハンドレール)を握ってステップ上に立つことですね。
下りのエスカレーターでは当然ですが、上りのエスカレーターでも同じことです。

しかし、分かっていても、自分一人だからとか、これまでに危険を感じたことがないからと、ついつい手放しで乗ってしまいがちです。

危険回避行動を実行するためには、状況を観察して危険な事故につながる出来事を想像したら、『起きるかもしれない』と思い、何事もなければ『自分の身の安全は自分で守る』ことができたことを良しとして、次の場面でも出来るように習慣化しましょう。

蛇足ですが、この女性が左手に持っているコーヒーのテイクアウトカップらしきものは、不都合な出来事を考えると、避けたい行為です。たとえ一人でエレベーターに乗っていたとしても、エレベーターのステップに溢してしまったら、機械的または電気的な故障でエレベーターの停止につながるかもしれません。また、多数の利用者が同乗していたら、熱いコーヒーを振りかけてしまって火傷を負わすことも考えられます。
危険を起こすようなことを控えることも危険回避実行力ですね。

(4)子どもに伝えたい危機管理能力

冒頭で、私たちには本能的防御能力が備わっていると述べました。これは人間だけではありません。昆虫類や爬虫類、魚類、犬・猫などの哺乳類にも備わっています。それは、『種を守る』ためにDNAに書き込まれたものなのでしょう。防御能力を備えた者だけが生き延びてきたとも言えます。
それは、自然界にあって、悠久の時間のなかで遭遇した出来事に対応するもので、現代を生きる人間としては、それだけでは十分ではありません。

文明が生み出した社会にあっては、自然界に存在しないことへの対応が求められます。製造者や設置者があるところまでは安全対策を施し、さらに万が一の不都合な出来事の発生に備えて利用者へ諸注意を促していますが、それは往々にして利用者にとっては煩わしく思われます。
さきほどのエスカレーターの例でも、『手すりを持って乗る』とか『立ち止まって乗る』とかです。いつ起きるともしれないないことに備えた行為をする人を、小心者といった見方がされるのでしょうか。

しかし、その意識を切り替えなければ、大惨事を引き起こす当事者になってしまうのです。この、安全に対する実直さは、私たちはもとより子どもたちにこそ、身につけて欲しいことなのです。

それは、私たちが受ける不都合な出来事として、考えておかなければならない『東海・東南海・南海地震』『首都直下型地震』などの懸念があるからです。
コラム~福祉と減災~『減災はイマジネーション力』でも紹介したとおり、近・現代の120年間に、濃尾地震から東日本大震災まで、主な地震だけで15事例ありました。
それぞれで発生場所(内陸、海溝など)や災害形態(短周期振動・長周期振動、津波、地盤崩落など)の違いがありますが、時代を追うほどにダメージの様相は深刻になってきます。『東海・東南海・南海地震』が発生するのは今後30年間で70~80%と言われています(2020年現在)。

このコラムでは、減災対策の一つ一つを解説するものではありませんが、一つだけ事例をあげておきましょう。

引用)危険予想イメージ図:「ポートフォリオでプロジェクト学習」P106/鈴木敏恵 著/教育同人社

これは家庭のキッチンです。つり戸棚にかぎらず多くの収納棚があり、開き戸が付いています。忙しいお料理時間に、ササッとお鍋や食器路とり出したりするために、手の届く範囲に集約されています。
そして、片手で開け閉めできるようになっています。

さて、ここで【不都合な出来事】地震が起きたら!
【危険】つり戸棚の中のものが飛び出して、床に散乱(割れるかも)します。【危険拡大】そこに立っている人の頭を直撃するかもしれません。さらにガラスや陶器の破片で足を切るかもしれません。

そこで、【危険回避】つり戸棚の中のものが飛び出さないようにするのが、『扉ラッチ金具』です。いろいろな方法の器具がありますが、ここでは、常はラッチしておき、扉を開くときに解除する方式を紹介しています。確実性の高い方式です。

しかし、難点なのは扉を開ける時にひと手間かかることです。いわゆる煩わしさがあります。『いつ起きるかわからない地震に備えて、毎日毎日手間のかかることは嫌だな』とよく言われます。

長年、ひと手間の無い行動に慣れてしまっている大人には、なかなか馴染めないことでしょう。それでも、その気になれば、思い立ったら吉日で器具をつけて1か月もすれば当たり前になってしまいます。どうぞご心配なく!それよりも、安心感で余裕が生まれます。

子どもたちには、幼少期からこのような環境を与えてあげて欲しいと思います。家の中の危険回避の仕組みに慣れさせ、あたり前のことにしてあげて欲しいのです。そして、物事の理解ができるようになったら、『危機管理能力=危険察知力×危険拡大性想像力×危険回避行動力』にもとづいて説明してあげてください。

子どもたちが、独り立ちをしたときに、行く先々、生活する場所場所で自分の身の安全を守り、社会の安全を守れる人になってくれるでしょう。
30年後の社会の中核になる、今の子どもたちの幸せを願って、今の大人たちが少し努力しませんか。

次項は『人事を尽くして天命にまかす』です。
自分の全力をかけて努力をしたら、その後は静かに天命に任せるということで、事の成否は人知を越えたところにあるのだから、そんな結果になろうとも悔いはないという心境のたとえです。
そこまで達観はできないかもしれませんが、次項で『福祉と減災』のコラムを、ひとまず綴じることにします。