前項で地震災害に対する想像力の働かせ方を紹介しました。
これは今回の「”不安”から”心配”へ」と関係しています。

あらためて辞書で「不安」と「心配」を引いてみると、大辞林 第三版の解説では、

ふあん【不安】
これから起こる事態に対する恐れから、気持ちが落ち着かないこと。

しんぱい【心配】
何か起きはしないかと気にかけるさま。気がかりなさま。

確かに、”不安”も”心配”も同じようなことを示しているように思えますが、私は次のように考えています。
”不安”とは、自分の家族に何が降りかかってくるのか、何が起きるのかを想像もせずに、ただただ恐れている状態であり、”心配”とは、自分の家族に何が降りかかってくるのか、何が起きるのかを想像したうえで対応や防衛ができるか、できないかを思案している状態です。

”心配”の状態であれば良しと言うわけではありませんが、”不安”より一歩前進です。

それでは、地震災害とあわせて起き得る災害・事故と被害連鎖を思い描いてみましょう。

<私たちの身の回りに起きる災害・事故>
地震と台風のようにお互いに関係なく発生するものと、土砂崩れのように地震や台風、集中豪雨が引き起こすものが想定されます。
また、自然災害のように広域に影響があるものと、交通事故や火災事故のように局地的なものがあります。
あるいは、疫病のように初めは局地的発生でも伝染拡大するものもあります。
そして、それらが同時に起きることも考えておかなければなりません。
このように絵にしてみるとよくわかりますね。

<海溝型地震における沿岸地での被害連鎖>
海溝型の地震に付随することは、沿岸地への「津波」到来です。
2011年の東日本大震災に見られたのは、地震の揺れには何ら被害を受けなかった家々を大津波が呑み込みながら内陸に遡上する様でした。
ここで素早く高台に避難したか、避難できたかがその後の生死を分けました。
しかし、その後の住宅地の高台移転は地域ごとに進み具合に温度差があることは聞きおよぶところです。

沿岸地に住んでいる人、または勤め先がある人にとって、津波に襲われるということは共通の不安だと思います。しかし、不安なまま日々を過ごしていてもよいのでしょうか。
それでは次のように自分に問いかけてみましょう。
『今いるところから津波避難ビルも含めた高台に行く径路は分かっているか』
『その経路の途中に津波が先回りする浸水域はあるか』
『徒歩で何分くらい掛かるか』等々
答えられない問いかけがあれば、そのことが心配ごととなります。
しかし、その心配ごとが分かれば、答えは探すことが出来ます。

このように、命を脅かすものの存在を知り、命を守るために必要なものを自分に問いかけて、不安から具体的な心配に変えて、対策を考えていきましょう。

<海溝型地震における内陸急傾斜地での被害連鎖>
沿岸部でないので大丈夫と高を括っていてはなりません。最近あちらこちらでおきている活断層型地震を誘発する可能性があるからです。そして、活断層はどこにでもある(分かっていないものがたくさんある)のですから、不安になりますね。
特に裏山が急傾斜地(斜度30度以上)になっている場所は、海の津波と同じように山の津波(がけ崩れ)に襲われることがあります。また、山からの川が流れているところは土石流発生の不安もあります。
特に、長雨や集中豪雨の後は、地震に関係なくそれらの発生が予想されます。

こういうときも自分に問いかけてみましょう。
『土砂崩れの前兆はどんな状況か』
『前兆があったらどこへ避難するのか』
『避難場所とされているところは急傾斜地を背負っていないか』等々

これも適切に答えられなければ、そのことを心配ごととして答えを探しましょう。

<避難所生活での被害連鎖>
自宅を離れなければならない事態についても、何が起きるのか分からず不安になってしまいますね。

このようなときも、自分に問いかけてみましょう。
『毎日飲んでいる薬の名前と数量を言えるか』
『身体を清潔に保つことができるか』
『留守宅への侵入盗を防止できるか』

命を守ることは勿論のこと、財産やを守ることプライバシーを守ることなど多岐にわたって心配の種は尽きません。それでも、一つ一つ家族の生活事情を踏まえて自問自答しておくことで100点満点ではないにしても心配ごとへの対応策を手中にすることが出来るのです。

<自宅での被害連鎖>
自宅避難での不安は、避難所や他地域への避難に比べて軽いと思われますが、逆に周囲の人たちとの関わり合いから隔てられてしまう不安が強くなるのではないでしょうか。

こういったときも、自分に問いかけてみましょう。
『両隣のお宅の人と日ごろから挨拶を交わしているか』
『自治区の行事や使役作業に参加協力しているか』
『自宅の周辺をきれいにしているか』

現在、近所の人たちと気持ちよくお付き合いできているなら、特に心配することはないでしょう。
緊急時には、お互いの安否状況を取り交わしておくことで、その後の変化にも気付きあえると思います。そして、正しそうな情報を入手したら、出し惜しみすることなく提供して、その後も良好な関係を維持していきましょう。

<地震防災(減災)課題>
不安を具体的な心配に変えるために、いくつかの自問自答項目を示しました。これだけでなく、それぞれのご家庭に固有の不安もあるでしょう。
そのようなときは、過去の被災地で起きた問題から見出した課題を、発災前後の「時間軸」と自助・共助・公助といった「立場」、そして「人と物」の区分けでマッピングした地震防災(減災)課題マップにある課題項目を参考にして自問自答してみてください。
きっと、皆様の不安を具体的な心配に変える手掛かりになることでしょう。

次項は『自助7割、共助2割、公助1割』です。
最後に示した『地震防災(減災)の課題マップ』のマッピング軸因子になっている『自助、共助、公助』について、災害時の福祉を成り立たせるうえで大切な比率を紹介します。